日本の経済・社会の「痛みをともなう構造改革」のなかで、「今こそ労働組合の出番である」という声がある反面、「労働組合は守旧派で改革の足を引っ張っている」との声もある。見方を換えれば、労働組合が注目されているということになるが、労働組合の今後を考えるうえで気にかかる調査結果が公表されている。
平成14年度分の「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の速報は、前年度比で「現金給与総額は2年連続減少、所定外労働時間は増加、常用雇用は5年連続減少しパートタイム労働者は3.6%の増加」と、報告している。この調査では、総実労働時間は年換算で1,826時間(前年度は1,836時間)となっているが、「労働力調査」(総務省)の2002年度の非農林雇用者の週労働時間は42.3時間、年換算では2,200時間(前年度は2,205時間)となり、両調査の間には大きな格差がある。いうまでもなく、「支払われた労働時間」と「実際に働いた時間」との差、すなわち「不払い労働時間」の大きさを示しており、ノーペイ・ノーワークの取り組みの強力な推進が求められている。
厚生労働省の「平成14年度労働条件総合調査」によると、昨年度(平成13年度)の年次有給休暇の取得率は48.4%で調査始まって以来の最低水準であった(労働組合がある企業は51.7%、ない企業は44.1%)。
また、平成14年労働組合基礎調査(厚生労働省)では労働組合の推定組織率は20.2%と報告されており、長期低下傾向に歯止めがかかっていない。昨今の常用雇用の減・パートタイム雇用の増は、労働組合の組織率への影響のみならず労働組合組織のある企業内における未組織労働者問題をも顕在化させている。
これらの結果は、労働組合の基本的取り組み課題に対する力量や存在感が問われていることを示唆している。組織の活動状況を点検するにあたっては、ヒト、モノ、カネを分析・検討することが肝要である。これを労働組合に当てはめると、労働組合役員、労働組合組織や活動内容、労働組合財政ということになろう。本報告書は、労働組合の今日的課題を、ヒト=労働組合役員の問題から分析し、併せ次代のユニオンリーダーからみた今後の取り組み課題を検討したものである。
本報告書のもとになった調査は、労働調査協議会(略称:労調協)が2001年の秋から2002年の春にかけて、労働組合の協力を得て実施した「第2回・次代のユニオンリーダー」調査である。ここでいう、次代のユニオンリーダーは「5〜10年先に当該労働組合の活動を中心的に担う人」たちであり、その人選は各労働組合に一任した。また、この調査は労調協企画委員が中心となって行ったものである。
この調査は、@次代のユニオンリーダーのプロフィール、A次代のユニオンリーダーの労働組合内キャリア(労働組合役員への就任理由、現在の労働組合役員としての活動時間、労働組合活動の充実感と役員という仕事についての評価、労働組合役員の継続意思、今後の中心的生活関心の所在)、B労働組合役員をしていて経験すること、C労働組合役員の人材育成、D労働組合活動の評価、Eこれからの労働組合活動(労働組合のこれからの活動領域、労働組合のこれからの取り組み課題)、F支持政党、から構成されている。
調査票、中間報告の概要については巻末に参考資料として掲載している。なお、調査結果の中間報告と集計結果は『労働調査』(2002年5月号)で発表している。
本報告書は、中間報告を踏まえて労調協調査研究員により、より立ち入った分析を加えたもので、本文は労働組合役員のリクルート、定着、人材育成を扱った第1章から第3章と課題編ともいうべきホワイトカラーの労働組合活動への影響、女性役員からみた労働組合改革、労働組合の社会性をあつかった第4章から第6章より構成されている。
第1章は、労働組合役員の「なり手不足」に着目し、その背景を検討し労働組合へのリクルートには労働組合活動が組合員から信頼、評価されていることが大切で、その評価は賃上げや時短に関連した基本的労働条件によって左右されることを浮き彫りにしている。
第2章は、現在、次代のユニオンリーダーになることを期待されている人でも「世のため、人のために」労働組合役員にうってでた人は少なく、「断る理由がなかった」の消極的理由からの就任が最多であり、この傾向はこれからも続きそうである。本章では、今や組合役員就任時の“主流派”である消極的理由で就任した人たちを労働組合役員として定着させるには何が必要かを検討し、責任や権限の付与、労働組合における風通しのよさ、労働組合活動の新たな展開に目を向けること、の大切さを指摘している。
第3章ではユニオンリーダーの人材育成に焦点をあて、次代のユニオンリーダーの仕事を遂行するうえで、日常の労働組合業務や実際の労使交渉での経験が役立っており、今後の人材育成にとっては一般労働組合員との意思疎通の大切さを重視し、併せ、労働組合員の労働組合離れのもとで労働組合役員の負担が増大しつつある状況に着目して業務内容の明確化の必要性を指摘している。
第4章は、労働組合の高学歴化、ホワイトカラー化が進むなかで問題となっている組織率の低下と労働組合離れに着目し、この人たちの労働組合活動へ与える影響を、高卒・技能系、大卒以上・事務・営業販売系、大卒以上技術系という3類型のなかで分析している。そのなかから、高学歴・ホワイトカラー層は集団主義より「自立した」個人主義志向と親和的な人が多く、職業生活のうえでリターンと同時にリスクをも伴う。高学歴・ホワイトカラーのユニオンリーダーが主導する労働組合では、組合員相互の状況認識の共有化と組合籍を離れた後の職業生活を視野に入れた諸制度の設計・運用をベースにしながら、選択の公平性の確保とセイフティーネット構築の必要性を明らかにしている。
第5章では、女性役員の参画と労働組合活性化との関係に注目し、女性役員の活動状況、人材育成策、今後取り組みを重視すべき課題などを男性役員との対比を通して検討し、女性組合役員の比率向上策を検討している。その結果、女性役員は男性役員に比べ職場密着型ないし職場に即した活動に特徴があり、このような役員像こそ注目すべきではないかと提起している。
第6章では、労働組合の社会的活動を検討している。この領域の活動は、正規従業員の解雇を含むリストラ・雇用調整が実施され、仕事と生活の先行き不安が高まるなかでその重要性を強めているが、組合員をこの活動へ吸引する力は弱まっている。労働組合の社会的課題に関する四つの設問から、この活動に思いを馳せている人は「会社・仕事人間」ではなく、仕事と生活のバランスを大切にし、組合メンバー以外の人にも思いやりの気持ちを持っている人、そして組合を信頼している人たちであることを浮き彫りにしている。
なお各章には、「はじめに」で各執筆者の問題意識を、末尾に分析結果を踏まえた「まとめ」をつけている。この「まとめ」は、執筆者個々人からの組合に対する問題提起となっている。
(『労働調査』2003年6月号掲載)